チャイコフスキーの交響曲第5番を演奏するので、曲の構成とか好きなポイントとか、練習中に気付いたことなど語ってみる。
音楽理論とか全然わからないけど、自分なりの解釈を持って、演奏方針を考えたい。
YouTubeで一番好きな演奏貼っておく。
作曲の時代背景
ロシアの作曲家、チャイコフスキーが48歳のときの作品で、1888年に作曲された。
海外を演奏旅行でまわった後、ロシアのフロローフスコエ村に引越し、ここで作曲をしている。
創作ノートなどから、運命への服従と抵抗、勝利がテーマになっていると考えられている。
曲の構成・注目フレーズと演奏方針
( )内は↑で貼った動画の秒数。ざっくり構成のまとめと、好きなところや演奏するうえで注意したいところなどを語る。
運命の動機について
全楽章で「運命動機」と呼ばれるテーマが登場する。
名前的にベートーヴェンの「運命」を意識してそう。こっちも交響曲5番だし。
深刻な雰囲気で始まる第1楽章冒頭のクラリネットは

こんな感じでホ短調(Eマイナー)の暗い雰囲気だけれど、
堂々と力強い第4楽章フィナーレでは

こんな感じでホ長調(Eメジャー)の朗々とした雰囲気になる。
同じ音型でも調や楽器、演奏表現の違いによって、登場するたびに印象が変わるのが面白い。
第1楽章
構成
序奏部
運命動機
暗い運命を暗示してる感じ
提示部
- 第1主題(03分06秒~):ホ短調(Eマイナー ♯1つ)
ポーランド民謡からとったと言われているらしい
最初はクラリネットとファゴットの怪しげな行進だが、各楽器が加わり次第に力強くなる - 第2主題(04分47秒~):ロ短調(Hマイナー ♯2つ)
さらさら降る雨とさわやかに吹き抜ける風のようなイメージ
弦楽器→管楽器の順で奏でるので、音色や雰囲気の違いも楽しい - 副次主題(06分06秒~):ニ長調(Dメジャー ♯2つ)
弦楽器が主旋律で木管楽器が裏メロ、ホルンが合いの手。
ゆったりと優雅な3拍子のリズム - 小結尾(06分56秒~):ニ長調
第1主題の華やかなファンファーレが鳴り提示部終了
展開部(07分35秒~)
はずむようなリズムで、各主題の破片が色んな楽器で繰り返される。リレーのようで楽しい。
終わりに金管楽器が強く第1主題のファンファーレを鳴らす。
再現部(09分31秒~)
提示部とほぼ同じだが、途中で転調して少し明るくなる。
終結部(13分26秒~)
第1主題が激しく強くかき鳴らされた後、再び行進。
終わりに向かうにつれ楽器が離脱していき、最後は低音楽器のみで厳かに幕を下ろす。ここは軍靴の音が聞こえてきそうな雰囲気。
注目フレーズ・演奏方針
- 副次主題

頭の中で8分音符を刻んでいないとホルンにつられたり、音の変わり目のタイミングを見失ったりするので難しい。各旋律が半拍ずつずれた状態でかみ合っており寸分の狂いも許されない気がして、いつも窮屈に感じてしまうフレーズ。ここはもう指揮をガン見すると決めている。
第2楽章
構成
主部
- 主旋律(15分37秒~):ニ長調(Dメジャー ♯2つ)
ホルン独奏で提示
とっても甘美で夢見るような旋律 - 副次旋律(17分16秒~):嬰ヘ長調(F♯メジャー ♯6つ)
オーボエが提示
多分完成形は18分42秒~の弦楽器の旋律
提示したときは優しくやわらかい光、みたいな雰囲気だが、完成形はすごく感情がこもって胸が熱くなる感じ。主旋律が比較的穏やかなのに対してこっちは感情に全振りな印象。
中間部(20分20秒~):嬰ハ短調(C♯マイナー ♯4つ)
怪しげで民俗的な旋律
クラリネットが提示して各楽器で展開
主部再現(22分05秒~):ニ長調
再び主部の主旋律・副次旋律が静かに始まる。
ヴァイオリンが提示。
段々高ぶっていき、盛り上がりが最高潮(ffff)になる
終結部(25分43秒~)
再び音が掻き消える。嵐の後の穏やかな雰囲気でクラリネットがやわらかく終結。
とにかくエモーショナルな楽章。なんといっても冒頭のホルン独奏の豊かな響きにいつもうっとりする。大好き。
注目フレーズ・演奏方針
- 副次旋律 ソロ(17分16秒~)


紫がオーボエ、黄色がホルン。掛け合いになっている。弦楽器は8部音符をやさしく刻む
ホルンとの掛け合いが楽しい。ホルン独奏の和音がコントラバスもいて重厚な雰囲気だったのに対し、オーボエが加わってからは雰囲気が明るく、優しく、ただどこか悲しげな雰囲気になる。
ホルンが作った世界観に明るさと優しさを加えるイメージで、お互いに呼びかけあうようなイメージで演奏したいなと思う。
弦楽器の3連符がやりづらそうなので、テンポ感は失わないようにしたい。
出来れば一息で吹ききりたい。最後の2音が一番盛り上がるはずだが、ビブラートをかけようとするとそこに行くまでに力尽きるので鍛錬する。
ビブラートもかけつつ音程も調整しつつ音量も変えつつテンポを守りつつ弦楽器とかみ合うように気を付けつつ、と色んな事を同時平行かつリアルタイムで処理しないといけないので、改めて楽器を歌うように吹くということはすごく難しくて高度な技術だと思う。
あとこの後、フレーズの断片をクラリネット(mf)→ファゴット(p)→コントラバス(pp)→弦楽器たち(mf)でこだまさせて、チェロに旋律を渡していくところも、音の波の満ち引きを感じて好き。
- チェロの主部旋律の裏で駆け上がっていくところ(17分47秒~)

感情が高まっていくような音型。
スコアを読んでいたら色んな楽器が裏で合いの手を入れたり掛け合いをしたりしていることに気づいたが、オーボエだけなんか動きが異質。オーケストラのアンサンブルとは少し離れて、テンポは守りつつある程度自由にやってもいいのかな。
主旋律ではないため万が一音がなくなっても進行に支障はないが、すごく歌ってよいというありがたいソロだと思う。音程が安定しなくてうまく歌いきれないが、1音1音息の入れ方を考えたい。
第3楽章
構成
ワルツ イ長調 3部形式
交響曲で、この第3楽章にワルツを入れるのは新しい試みだったそう。ヨーロッパでワルツが流行していたことが背景にあるよう。
主部(27分40秒~):イ長調(Aメジャー ♯3つ)
優雅なワルツ。ヨーロッパの伝統的なレンガと石畳の町並みで、人々が楽しそうに軽やかに踊っているイメージがわく
ファゴットの、シンコペーションで進む旋律(28分44秒~)がおどけた軽快な雰囲気
中間部(29分04秒~):嬰へ短調(F#マイナー ♯3つ)
ちょこまかした動きを色々な楽器でやっている。
歯車がかみ合ってあちこちで色々なものが動いているような感じ。
主部再現(30分26秒~)
オーボエから開始。主部と同じ展開。
終結部(31分49秒~)
クラリネットにより、不穏で忍び寄るような運命動機(32分22秒~)が挟まり、全員で終奏。
明るくふるまってても暗い運命はすぐそばにある、みたいなメッセージ性を感じる。
注目フレーズ・演奏方針
- 主部のオーボエ・ファゴットユニゾン(28分00秒~)
なんとなく男女が軽やかな社交ダンスを踊っているイメージがある
細かいスタッカートが難しいけど、ダブルリード属特有の、ポップコーンがはじけるような軽いタンギングは聞いている分には楽しい。低い音ほど小さい音が出しづらくタンギングもしづらいという性質の楽器のため、音が下がるに連れてデクレッシェンドしていくのが難しい。多分出来ないので気持ちだけデクレッシェンドすることにする。 - 主部再現のオーボエパートSoli(30分26秒~)
オーボエといえば美しく物悲しく響く高音って感じだけど、ここで使われている中低音域も独特のまろやかさがあって、いいよね。
甘いチョコレートみたいなイメージをもって吹いている。中間部でずっと縦にカクカクした動きだったところがなめらかな横の動きになるので、雰囲気が変わったことを印象づけられるように吹きたい
第4楽章
構成
序奏部:運命動機 ホ長調(Eメジャー)
運命に向き合い、打ち勝っていく感
提示部
- 第1主題(35分28秒~):ホ短調(Eマイナー ♯1つ)
厳しく激しい旋律の後、寄せては返す波のように広く優雅な旋律(36分04秒~)が弦楽器によって奏でられる。この後第2主題へ移行していくが、トロンボーン・ヴィオラ・チェロが下降系、フルート・オーボエ・ヴァイオリンが上昇系で音が交錯していくところ(36分19秒~)が楽しい。対比が好き。 - 第2主題(36分32秒~):イ長調(Aメジャー ♯3つ)
木管楽器が提示して展開。
イメージとしては、花畑で両腕を広げて喜びに満ちあふれている感じ。めちゃくちゃ好き。 - 小結尾(37分04秒~):ホ短調
ヴァイオリン・ヴィオラが旋律を奏で、低音弦楽器と木管楽器が4分音符を刻む。ここの旋律、音だけで見ると単純にドシラソファミレドって下っていっているだけなのに切なさがこもってめちゃくちゃ美しいので驚く。天才か?トゥシューズを履いたバレリーナが、やわらかい所作で階段を下りていくようなイメージ。 - 運命の動機(37分12秒~):ハ長調(Cメジャー)
トランペットにより堂々と提示。ハ長調だからか、スタンダードで率直な感じする。
展開部(37分40秒~)
主題の破片が展開していく。トロンボーンからトランペットに引き継がれていくベルトーン(37分47秒~)が超かっこいい。
途中で出てくるクラリネット(38分10秒~)がめちゃくちゃ難しそう。なんか壊れたラジオみたいな印象を受ける。
最後の方は音価が長くなっていき、寄せては返す波のようにクレッシェンド・デクレッシェンドを繰り返しながらだんだん音が小さくなっていく(38分29秒~)
再現部(39分08秒~)
再現部といいつつ聞き覚えのないフレーズから劇的に始まるが、先生がここはチャイコフスキーが我慢できずついぽろっとでちゃったロシア的な旋律だという話をしていらした。ロシア音楽っぽい感じってあまりピンと来てないのでそうなのかあという感じ。
これも第1楽章と同じく途中から転調して明るくなる。
- 運命動機(41分02秒~)
金管勢による運命動機の輪唱。この直前からヴァイオリンが半音で下降し始めて暗雲垂れ込める雰囲気になり、雷鳴のように現れる。
終結部(41分51秒~):ホ長調
フィナーレ。演奏者はもうヘトヘトだけど一番雄大で堂々としないといけないところ。映画のエンドロールぽい。
運命動機が弦楽器・金管楽器によって朗々と奏でられた後、急速にスピードアップし(43分29秒~)、トランペットとホルンによるファンファーレ(43分47秒~ 第1楽章でも出てきたもの)の掛け合いで豪快に締めくくられる。
注目フレーズ・演奏方針
- 第1主題のソロ?のようなところ

実はチェロ・コントラバスと掛け合いになっているの、合奏中に気づいた。
後ろにアクセントが付いており、後押しするような吹き方になるのでちょっとやりづらい。
- 第2主題

黄色:好きな和音 赤:音がぶつかっておっ!美しい!となるところ
チャイ5で一番好きなところかもしれない。プロの演奏はここを聞くたびに鳥肌が立つ。(自分の演奏だと鳥肌立たないのがちょっと悔しい)
運命動機が勝利!って感じ+第1主題が険しく激しいのに対し、こっちは両腕を広げて喜びいっぱい!という感じがする
このフレーズに入る直前、金管低音の和音が立体的に広がって、木管の旋律につながるところもとても好き。視界がわっと開けて、眼前に一面の花畑が広がるようなイメージがある。
弦楽器が裏で頭拍なしの3連符を弾いているのだけど、これがザワザワとしててすごく風と草原感ある。
8分音符で転びがちなのだけど、落ち着いて丁寧に吹きたい。
- Finaleのファンファーレ(43分47秒~)
TpとHrの高らかな掛け合いで、第1楽章に出てきたファンファーレと同じ。伏線回収感あって好き。なお、オーボエが何故か全フレーズ一緒に吹いていて、へとへとだし正直聞こえるわけないのだけどここいる??と思いながら演奏している。作曲者はどういう意図でオーボエにこれをやらせているのだろうか。
全体的に
ずっとしかめっ面で、重厚で堂々としている印象の曲。苦悩を抱え、葛藤し、抵抗し、最終的には勝利する、みたいな高揚感もある。
金管と低音と打楽器が全面に出てて派手なのと、すごく訴えかけてくるような旋律ばかりで、心を強く揺さぶられるところが好き。金管はうるさければうるさいほどいいよね。
チャイコフスキー自身は、伝記を読む限りすごく繊細な人だったようなので、明るい旋律であってもうっすら悲観的なオーラが漂っている音づくりに性格が表れているような気がした。
演奏者的にはスタミナ勝負な曲で(プロの先生も疲れると言っていた)第2楽章と第4楽章は多分吹ききるのが難しい。
最初に譜面を見たとき、強弱記号や発想標語などの指示の多さに驚いた。かなり細かく指示がされているのも、作家の几帳面な性格によるものかもしれない。ここまで書いてくれているなら、実力のおよぶ限り譜面に忠実に従おうということで日々練習中。
ブログにのせるにあたって色々調べつつまとめてみたが、調べれば調べるほど新しい発見が見つかり楽しい。まだ味わい切れていないハーモニーも沢山ある気がして、もっと早くにこうやって楽曲に向き合っておけばよかったなとも思った。本番は「この曲のこんなところが好き!」という気持ちを前面に出して、楽しんで演奏できたらいいな。
参考URL・参考文献
ひのまどか著『チャイコフスキー (音楽家の伝記はじめに読む1冊)』ヤマハミュージックエンタテイメントホールディングス 2020年
スコア『チャイコフスキー交響曲第5番ホ短調』音楽之友社 1957年(解説:堀内敬三)
*1:ソナタ形式について簡単に注釈。
おおまかに 序奏部→提示部→展開部→再現部→終結部 で構成された形式のこと。
- 序奏部:はじまり!
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提示部:主題(テーマ)が提示される。だいたい主題は2つで、対照的な性格のことが多い。例えば、第1主題→ブチギレわんこ 第2主題→おやすみドッグ といった感じ。なお、チャイ5第1楽章ではこれ以外に副次主題という第3のテーマもある。
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展開部:提示部で出た主題が細かいパーツにバラされて演奏される。おやすみおやすみ、ドドドドドッグ、みたいな。主題と主題を適当な音でつなぐこともある。おやすみスヤスヤ/わんこ、みたいな感じ
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再現部:提示部と同じ内容に戻る。だいたい転調したりする。
- 終結部:終わり!
*2:3部形式についても簡単に注釈。
おおまかにA→B→Aのがうな構成の曲。チャイ5の場合は、第2楽章・第3楽章ともに、主部→中間部→主部再現→終結部 という構成になっている。- 主部:メインテーマが流れる
- 中間部:メインテーマとは全然関係ないテーマが流れる
- 主部再現:再度メインテーマが流れる
- 終結部:終わり!
ソナタ形式との違いは、曲中盤の展開が違うのと(ソナタ形式は細かく砕かれたメインテーマの破片が使われるのに対し、三部形式は全然違うテーマになる)、ソナタ形式の場合は必ずテーマが2つある。